2024年5月度修習技術者研修会 開催報告

このブログを読んでいただいている皆さまへ

〔出港前に〕

いつも修習技術者支援委員会を温かく支えてくださりありがとうございます。修習技術者支援委員会 委員の森本 聡です。当日の船上の様子をほんの少しでも感じて頂けたら幸せです。

5月度の研修会テーマは、「海から地球の謎を探る~海洋調査の最前線~最新の海洋調査の紹介とリスクアセスメント」(タイトルからワクワク♥します)。理学博士であられる研究者 木戸ゆかり先生のご講演です。木戸先生は、応用理学部門の技術士で、地球物理学、海洋研究開発の第一人者。若かりし頃から船に乗り、海底の地質、地球の深部調査・研究に没頭。現在 次世代の子供たちに その魅力を伝える活動もされる地球激愛研究者です。

そして、先生の相棒は、有名な映画にも登場した世界最高の海洋探査性能を誇り掘削船でもある地球深部探査船「ちきゅう」。木戸先生と「ちきゅう」、仲間たちとどのような国際的研究・プロジェクトが進められてきたのでしょうか。海洋調査の最前線、リスクスメントとは・・・!?

さあ、「ちきゅう」と一緒にワクワク地球深部探査の航海に出かけましょう。         地球深部探査船「ちきゅう

〔出港、デッキにて〕

13時00分 出港の時刻となりました。航海士(司会)は、木戸先生の愛弟子 石黒委員です。

皆がデッキに集合。冒頭、石黒さんから爽やかな開会宣言、愛情あふれる木戸先生のご紹介、諸注意の後、初夏を感じさせる春晴れの広い海へ出港しました(乗船員:48名)。

航海士:石黒委員

 航海に先立ち、船長の片岡委員長からご挨拶です。木戸先生への感謝の言葉、そして事前に頂いた資料から「日本列島はまさに深い崖の淵にあること、驚きの写真。地球のライブラリーもすごい!」と船長興奮気味。また、「グループワークでは、『ちきゅうでやってみたいプロジェクト』を皆さんで話し合って頂き、発表します。」と、今回の船乗員である修習技術者、技術士の方へ説明がありました。

船長:片岡委員長

「お話によると、中学生の方も木戸先生のプロジェクトに参加されているとのこと。発想の柔軟性、俯瞰的に事象を捉えることができるか、実現手段とリスクまで科学技術の視点でどう考えうるか。」等グループワークを進めるうえでのヒントを伝授。「地球を掘ることと宇宙を掘ること(!?)とすごくつながっている。科学技術プラス少年少女の心持ちでグループワークを含め最後までよろしくお願いいたします。」と締めくり、船長席へと移動されました。

〔入り江から大海へ〕

お待ちかね、研究者 木戸先生のご登壇です(紺碧の海中赤いユニフォームが印象的!!)

研究員:木戸ゆかり先生

 冒頭の自己紹介、先生が若かりし頃の逸話から、既に引き込まれてしまいます。筆者が印象に残ったお話を3つ(とても興味深いお話ばかりで、全て書きたいのですが書ききれず断腸の思いで3つに絞りました)。

1つ目は、船上の荷物の前で撮られた1枚の写真。笑顔の先生が背もたれにしていた荷物は、なんとダイナマイト!当時、専攻されていた大学の地球物理学教室で使われていたそうです。北西太平洋の海底シャツキーライズ(日本から東500Km沖合)の構造探査。自ら火をつけ、10秒内に海に放り投げ・・・ドカーン!と。水しぶきをあげダイナマイトのエネルギーが海底に伝わり、海底の構造探査ができるとのこと。まさに、命がけの構造探査。スケールが広大な海です。。一方 現在は、指向性の高い超音波でエネルギーを海底に発して、跳ね返ってくるエネルギーを捕まえる方法で探査を実施。5km、5Kmの範囲を数cmのオーダーの精度でとれるようになった。

2つ目は、「ちきゅう」は、25か国から出資された乗り合い船で、地質だけでなく、地球物理、微生物、工学の専門家が集まり、コミュニティが作られる。事前の安全管理・リスク管理が行われている。

3つ目は、「ちきゅう」は海に浮かぶ研究所。浅い海ではイカリを海底に下ろして船を固定することもできるが、海洋で活躍する「ちきゅう」はどのように船を固定するのだろうか?実は、「ちきゅう」にはダイナミックポジショニングシステムという同じ場所を保持する機能がある。

GPSとあらかじめ海底に設置した音響トランスポンダで位置を決め、船底に6基あるアジマススラスター※1で位置を保持する。黒潮等、強潮流のある場所でも、210m×38m、5,700トンの巨船「ちきゅう」をおおよそ1m範囲内に収める優れモノ!!

                        アジマススラスターの仕組み

※1 アジマススラスター:360°回転するポッドにプロペラを装備した船舶推進装置。

(他にも、JAMSTEC※2には大小・形 様々な調査船があり、また、それぞれにミッションがあることを、語りつくせないと、とても楽しく話されていました。例えば、東京タワーのような高いやぐらのある船、25年の地殻構造体探査の任務を終えた「かいれい」「みらい※3」「よこすか(深海6500の母船)」(元原子力艦)」「ちきゅう」等があります。

※2 JAMSTEC:海洋研究開発機構。海・地球・住環境丸ごと研究!

https://www.jamstec.go.jp/j/

※3 みらい:元原子力船むつ:左右の船揺れを戻すアンチローリングシステムを備えた極めて船酔いの少ない船。現在は、電気推進で、3500人規模の町の電気量で6基のエンジンで賄う。日々海の状況が変わる北極圏・南氷洋の極域で地球環境に関わるミッションで活躍中。

深海6500は、3人しか乗れない、女性のパイロットも活躍!1700回超えの航海を無事故で継続中!!深海6500のパイロットになるには特別な資格は不要、UFOキャッチャーが上手くなるといいよとのアドバイス♬。現在は2チームで運用継続中。AIによる海底地形、セイルドローン活用、海外では地元プレジャーボートが協力等 限りなく深く広い、そう、海のような内容でした!まだまだ

〔『ちきゅう』でのプロジェクト始動〕

「自分の技術でもっといいことできる!『ちきゅう』でやってみたい!こと。それに伴うリスクも考えること。」課せられた課題は皆さん同じ。未知の深海プロジェクト。

「地球を掘るというのは、宇宙を掘ることと同じ。歴史を紐解いて我々の足元を見ましょう!」と、壮大、且つ心に残る名言。続いて「『ちきゅう』を使った新たなプロジェクトの創出!我こそは!」とアイデア募集(いよいよ、乗船員:修習技術者、技術士の出番です!)。

〔10の船室、ディスカッション、甲板にてプレゼン〕

異例の10室に分けられ、アイデア出しの始まりです。(・・・)各班、熱い討論が進み、あっという間に時間が経ち、集合の時刻。皆が大広間に集合しプレゼン・闊達な意見交換が繰り広げられました。

ディスカッションの様子

各班の研究テーマ・要旨は次のとおり。

A班 (ごめんなさい・・・。)

B班『深海の生物の探索』

ミミズや微生物等の探索を提案。リスクとして、環境・人体への影響が分からず、実験室からの漏洩した場合の予想が困難、未知の微生物への対応、微生物の環境問題等を抽出。微生物活用の場として、二酸化炭素を分解し酸素を排出したり、熱などから電気を蓄えたりする「エネルギー資源のゲームチェンジャー的な微生物の発見」を掲げられました。

C班『土木工事で使われる繊維素材の経年劣化モニタリング 等』

日常アプローチが困難な海底でのモニタリングや、海底に眠るメタンハイドレード等ガス資源の探索、水素エネルギーの活用、海底環境の利用、日常に対する貢献性等、海底掘削ができる「ちきゅう」号のメリット活用が挙げられました。これらは、地上の高温高圧環境に対し、「海底の微生物の分布、気温の変化等、採られたことのない海底環境下」での経年劣化を観察する点が特徴。

D班『海底水族館、海底潮流発電所の創設等』

種々多様なアイデアが出された。リスクとして「情報データの公開」とし、情報セキュリティ対策、機密情報の提示方法が挙げられた。具体例として「潮流発電のためのデータ公開」では、最適な流れ、海底の硬さの場所で発電するための技術力が足らない点をリスクとして抽出された。

E班『しんかい6500よりも深く潜水できる潜水艇を開発』

分野の異なる4名から、生成AIを活用した自立型有人潜水艇を提案。短時間にも関わらず、調査を念入りにされ、根拠に基づいた開発計画と感じた。人に対する安全性も漏れがなく、水圧が人体に与える影響から潜水スピードの議論・検討がなされた。未知の海底観光に、子供さんだけでなく、大人もワクワクすることだろう(整理券必要でしょうか??)。

F班『未利用資源の開発につながる掘削技術』

現状パイプを海底に繋げ掘削しているが、「掘削機械自体を海底に設置」し掘削することが特徴。深海が、地上と環境が異なること、掘る機械の折れに対するリスク等を抽出された。応用できる既存の技術調査を踏まえ、未利用資源メタンハイドレードの活用を検討。氷状態の資源からメタンガスを取り出すため、海表面のエネルギーを活用する研究も視野に入れられた。

G班『航行におけるエネルギーの有効利用』

異なる部門のメンバーで検討。大別するとドリル等の掘削、エネルギーに討段階で挙がった。金属材料の経年変化・データの収集、ウェーブグライダー・風・波等を活用した環境発電、ドリルのメンテナンス、船内の空気質の変化向上等、ヒートポンプの利用等、多種多様。エネルギーを多く使う課題を抽出。リスク検討の上、太陽光・風力によるハイブリッド発電、潜熱や水圧利用による発電の提案があった。

H班『ライザーパイプにCFRPを使用しコスト低減』

様々な意見が出る中、重くて長さが限られ、船での輸送が難しい金属製のライザーパイプに焦点を絞られた。金属材料を、飛行機で使用されているCFRP(炭素繊維複合材料)に代替し課題解決を図る。リスクに挙げた導入コスト、信頼性、耐水耐圧等を、疑似環境で評価し実現につなげる。既存技術の利活用は、開発時間の短縮・コスト低減にもつながると感じた。

I班『超深海ステーション』

議論の段階では、地球規模の継続的な持続性のある課題・活動、エネルギー問題、破棄物の保管利用や深海熱水発電等のアイデアが出た。一方、もっと大きい開発目標があってもよいのでは?との考えから、宇宙ステーションと対比して「超深海ステーション」を提案。この活用とし、海底下の生物系を研究し新薬の開発、メタンハイドレード近くにガスタービンの設置が考えられるとのこと。

J班『潮力・洋上風力エネルギーの活用と海洋開発を進めるための情報共有・セキュリティ』

5名それぞれの専門技術部門の知見から、しんかい6500でも使われているチタンを継続的に使用できるコーティング技術、超高圧化でも耐えうる技術を試験的に実施、洋上発電のために海底地質調査の実施、黒潮の潮流や水温変化を利用したエネルギー利用等のアイデアが挙がった。さらに、海底の流速データ(潮力発電)や海底地質の情報(洋上発電)、これらのデータ・情報はどこで入手できるの?という疑問から、情報分野へ発想が広がる。リスクとして、情報・データの情報共有不足、サイバー攻撃からのデータベースの管理、災害情報の共有に議論が進んだ。

<乗船員に向けて、ご講評>

開口一番「皆さんありがとうございます。さすがです!」と議論・プレゼン頂いた皆さんを大絶賛。「新エネルギーの開発、データの一元化」の課題については、「情報が全然発信がなされていない」と話された木戸先生ご自身にも気づきを与えたようです。「メタンハイドレードは、海底500~1000mの間にシャーベット状に存在。圧をかけたままごっそり『ちきゅう』で堀り上げて、新エネルギーとして使えないか、採った後の空洞をどう埋めていくか」と、現在進捗している状況について補足説明を頂きました。皆さんから出たアイデア・展開・深堀り、そして現実的にどう進めていけば課題解決にいけるかの深堀りは、木戸先生のお心に深く響いた様子でした。

研究員 木戸先生からご講評

<帰港>

副船長の石川さんからお言葉です。

「長時間の討論お疲れ様でした」と労いのお言葉。「出身の技術部門は違うが、アプローチの仕方、技術的な提案を『ちきゅう』に対してするは面白かったのではないでしょうか。また、建設的な提案がなされていました。」等のお言葉がありました。また、マリントラフィック※4にて『ちきゅう』が清水港にいることを映されました。

※4 マリントラフィック:https://www.marinetraffic.com/en/ais/home

副船長 石川副委員長       清水港に停泊中の「ちきゅう

<航海を経て(編集後記)・・・>

ちきゅう』で「地球」「宇宙」を掘削するアイデア創出プロジェクト。乗船員参加者 皆が一丸となってプロジェクトを遂行していくぞ!という熱意。研究者 木戸ゆかり先生の熱い想いが船上の皆の心に響いたのではないでしょうか。メンバー皆の討論が素晴らしく、内容の濃い発表、活発な質疑応答のある航海でした。また、研修会はリアル参加に限るとつくづく感じました。

会場甲板の割れんばかりの拍手は、高性能ノイズキャンセラーのおかげでオンライン甲板には届きませんでしたが、木戸先生が皆のプレゼンを熱心、かつ丁寧に聞かれていたのは、細やかに出されていた拍手から、オンライン乗船員に伝わったことでしょう。

                           拍手を送られる木戸先生

まだ会場に来られたことが無い方、研修会に参加されたことが無い方、会場参加がおすすめ!リアルに講師お話を聞き、会場の臨場感、研究者の熱意、会場でしか語られない話を体感してみてはいかがでしょうか?さらに、情報交流の場は、何物にも代えがたく、有意義で貴重な時間となることでしょう。皆さんのご参加、アイデアをお待ちしています。

修習技術者支援委員会では、これからもご参加頂くすべての方にとって、気づきや学びを感じて頂ける研修会づくりに取り組んでまいります。次回、研修会もお楽しみに!ありがとうございます。

JAMSTEC、「ちきゅう」が掲載された情報誌 Blue Earthの情報はこちらから。

https://www.jamstec.go.jp/j/pr/blueearth/

石川副船長 と 石黒航海士

木戸先生、乗船員の皆さま、クルーメンバーで記念撮影

2024年6月吉日

修習技術者支援委員会

委員 森本 聡