2023年2月度修習技術者研修会 開催報告

みなさん、こんにちは!

修習技術者支援委員会 委員の杉山です。

2/11(土)に、修習技術者研修会をオンラインで開催しました。祝日にも関わらず15名の参加をいただきました。

今回の研修テーマは「専門技術知識の理解と応用」です。相反した利害要求の調整・両立するために専門技術能力を応用して問題解決を図ることにフォーカスしてグループワークに取り組んでいただきました。いつもとは異なり、受講者の専門分野でまとめたグループ編成をつくり、各グループで取り組む事例を電気電子部門・機械部門・建設部門の3つから選択してもらいました。決められた時間内に意見を出し合い、まとめるのは厳しかったと思いますが、どのグループも真剣に取り組んでいる様子がうかがえました。

葛西委員の司会のもと、当日の内容とスケジュールについて説明があり、研修会が始まりました。

司会 葛西委員のスケジュール説明

1. 開会挨拶

阿部委員長から開会の挨拶がありました。

「トレードオフの課題はとても難しいですが、技術者にはクリティカルシンキングの思考が重要です。今日の研修の場では皆さんが自由な発想で意見を述べて臨んで欲しい」とのお言葉でした。クリティカルシンキングは何がしかの課題がある時に、その真の要因を見つけて課題解決を進めるのに有効な思考法です。グループワークを通じて手法を習得して、実践で活用していただきたいと思います。

本委員会 阿部委員長の開会挨拶

2. 講演

阿部委員長の挨拶に続いて、築城講師の講演が始まりました。講師は建築専門のゼネコンの工事本部に所属し、建築工事の施工計画に関するアドバイスや若手社員の教育に従事されている建設部門の技術士です。自己紹介の後に、建築業界での利害要求の事例として姉歯元一級建築設計事務所による構造計算書の偽造問題を取り上げ、その概要説明から講演が始まりました。建物の設計から完成~ユーザー様購入までの流れで構造計算や審査・許可認定等のステップを説明した後、構造計算書の偽装が生じた経緯、なぜ偽装が見過ごされてしまったのか、事件をきっかけにどのような国民への影響が取りざたされたのか、そして国の対応策について話をいただきました。この事例は当時大きな社会問題となりましたので、大筋は知っている方は多いと思いますが、私自身も講義を聞いて事件の背景と問題、そして課題を整理できました。

築城講師のご講演

さて、次に偽造問題での利害要求や調整・両立についてポイントを整理しながら講義が進められました。事例では建築主の経済的に厳しい要求(コスト縮減)と建築基準法に定める最低基準を満足(品質確保)させる要求が相反しています。そこで、これら2つの利害要求を調整・両立させる解決策について講師の考えが示されました。1つめは耐震性を確保しながら全体設計を見直して顧客と交渉して納得してもらう、2つめはコストダウンをしなくてもよいやり方で顧客と交渉して納得してもらう、の2案です。最終的には解決策を品質やコスト面から評価して選定するところに落とし込むことを教わりました。

3.グループワークと発表(1回目)

前半の講義を終えて、5グループに分かれてグループワークに入りました。大半の方は初顔合わせですので、最初に自己紹介とメンバの役割(リーダー・発表者・書記・タイムキーパ・質疑対応)を決めてもらいます。グループワークの1回目は①グループとして取り組む事例を3つの中から選択する。②利害要求を抽出しその調整・両立が困難な理由を討論し、意見をまとめます。事例は電気電子部門、機械部門、建設部門の受講者向けに3つ準備してありますがグループメンバーで自由に選択していただきました。ここでは意見を出し合いながら「○○と○○要求を調整・両立することは困難」を整理していきました。

グループワークの様子 (A班)

グループワークの様子(E班)

グループワークの様子(C班)

グループワークのまとめとしてグループワークの発表がありました。グループ発表は各3分、その後5分の質疑応答が設けられました。各グループで選択した事例について相反する要求を取り上げてその調整・両立が困難な理由について意見を出し合った内容を発表してもらいました。グループのディスカッションの様子をみさせていただきましたが、予算制約や求められる高い品質の対処に技術者として悩む場面が多い様子がうかがえました。各グループで取取り上げた、相反する利害要求とは次のような内容でした。

グループA:予算とインフラ品質確保を調整・両立することは困難

グループB:小型化(QSE)とコスト要求を調整・両立することは困難

グループC:維持管理(修繕基準と改修)の品質確保と技術者人手不足の利害要求調整・両立は困難

グループD:小型化と性能・生産性向上を調整・両立することは困難

グループE:維持管理と人材不足解消の利害要求調整・両立することは困難

4.グループワークと発表(2回目)

休憩後、講師から2回目のグループワークの説明がありました。グループで取り上げた、相反する要求について①利害要求を調整・両立するため専門技術を応用した解決策を討論する、②解決策の提案について、そのプロセスがわかるように比較表にまとめる、です。比較表は解決策案を列挙し、それぞれQ品質、Cコスト、D工程、S安全、E環境の視点で評価するフォーマットが講師から配布されました。

グループワークの様子 (B班)

グループワークの様子 (D班)

グループ発表の様子 (C班)

グループ発表の様子 (D班)

2回目のグループ発表では作成した比較表を使って、解決案を選ぶに至った考え方や着眼点を説明してもらいました。事例よって解決策はそれぞれですが、全体を通じて技術者・技能者の人材不足という課題に対し、どう技術で対策していくか検討していると感じました。これは特定の専門技術分野のというより社会全体で直面している問題ですので、これからの皆さんが技術士となり、幅広く活躍されるところでも新たな発想で対策を期待したいと思います。

5.まとめ

[講師 まとめ]

グループワーク発表後に築城講師からまとめがありました。研修会では相反する利害要求への対応について考えてもらった。建設業界で例えると、品質の良いものを安く、早く、そして安全や環境も配慮して欲しいというようなさまざまな要求が錯綜しています。業務ではこれら利害がぶつかりあう利害要求を抽出して、解決策を立案する際にはどちらにも偏らないような策を考え、提案するようになっていただきたい。ここで、電気電子部門向けの事例、建設部門の事例について講師の考える解決策について説明がありました。電気電子部門向けの事例1では、「サイズダウンしつつ、性能向上、実装の不具合を解消する」建設部門向けの事例3では、「品質を維持しつつ限りある予算でやりくりする」です。それぞれ具体的な対応として事例1では「電子回路の見直し・変更、汎用部品の活用」、事例3では「県や府等の上位の自治体と協力して、誰がどのインフラの担当をするといった取り決め方ではなく、対象インフラを1つの群としてとらえてメンテナンスする」という方向性も示していだきました。これらの対応策には、リスクアセスメントも重要で、例えば汎用部品の活用において、グローバルで安く部品を調達した場合、調達リードタイムを考慮して予備品をもっておくなどが考えられると思われます。

最後に、講師から「難しい要求を両立する際に、どちらかに大きく偏ることなく、技術的な折衷案を提案することを日々の業務で活かして欲しい」との言葉で締めくくりました。

[阿部委員長 まとめ]

阿部委員長からも研修会のまとめに際し、他セミナーを受講した際の話を共有いただきました。「医薬品・医用機器は世界的にガイドラインがあり、これらの世界はリスクベースアプローチが基本です。アメリカの医療機器メーカのアンケート結果から、きちんとリスクアセスメントを実施している企業は品質を維持・向上させつつ、コスト削減も実現できていることがわかった。今回研修で皆さんが取り組んだクリティカルシンキングがこれにあてはまります。今日はトレーニングですが、クリティカルシンキングを自分のものにして、業務において、まずクリティカルシンキングから始めてみて欲しい」と身をもって感じられたことをお話しいだだきました。まさに技術士にとって重要なステップであり思考であることを改めて感じました。受講者の皆さんも非常に有益な機会となったと思います。

6.講評

研修会の締め括りに片岡副委員長から振り返りと講評がありました。「今日は利害調整や両立性について議論をする機会をもっていただきました。具体的に何と何の要求がどう衝突しているのかを明確にしたうえでどう調整していくかの解決策を考えてもらいました。日常の業務においても同様にいくつもの条件が衝突する場面があります。今日のようにきちんと議論をすることでさまざまな視点が導かれ、その中から技術の視点で解決の方向性を示すことができることが今日の体験で皆さんが得られたのではないでしょうか。こういった問題にリスクを含めて納得できる解決策を示すことが技術士としての重要なポイントの1つです。今後の業務に活用していただきたい」とのお話がありました。まさに今回のグループワークは技術士としてベースとなる考え方と解決策へのアプローチを学んだとしてとても有意義であったと感じました。

本委員会 片岡副委員長の講評

以上

修習技術者支援委員会 委員 杉山 尚美