2022年1月度修習技術者研修会 開催報告

みなさん、明けましておめでとうございます。
修習技術者支援委員会 委員の石川と申します。
去る1/8(土)、本年1月度の修習技術者研修会を開催しました。今回は機械振興会館での本会場からの配信と、参加者のオンライン参加によるハイブリッド方式での試験開催でした。参加者は48名と、盛況でした。

1.概要
今回のテーマは、業務遂行能力「資質向上講座②-プロジェクトマネジメント概論」です。  講師に、元 日揮グローバル株式会社プロジェクトディレクターで、鎌倉国際合同会社代表の  示野康司 氏をお迎えして、数々の海外プラントの建設プロジェクトに関わられたご経験から、プロジェクトとは何か、プロジェクトマネジメントの学問としての一面、理論体系、そしてマネジメントの要素技術としてのSCOPE定義、計画、実行・監視、リスクマネジメント、及び契約についてご講演をお願いいたしました。途中、Ice Break Sessionと称して、参加者及び一部委員との自己紹介と討論を20分間行い、最後に事後課題としてppt形式での本講義の理解度テストを参加者の方々にお願いしております。

2.開会の挨拶
まず本委員会の阿部委員長(電気電子)から、次の様にご挨拶がございました。
皆さん、こんにちは。修習技術者支援委員会 委員長の阿部でございます。本日は、お休みにも拘わらず、非常に多くの参加者がいらっしゃいます。ありがとうございました。本日はプロジェクトマネジメントという事で、私どもの研修会でもプロジェクトマネジメントを題材にしたというのは、私の記憶ではおそらく初めてではないかと思っております。このプロジェクトマネジメント、業務にはプロジェクト型と定常型があって、人それぞれ仕事によってはプロジェクト型に慣れていない方もいらっしゃるかもしれませんが、本日は基本的な話を講師の先生からご説明があるかと思いますので学んでいただきたいと思います。IEA(国際エンジニアリング連合)のGA ・PC(Graduate Attributes Profiles and Professional Competencies Profiles)の話をいたしますと、そこに書いてある文言によると、Professional Engineer(PE)に求められているのは、プロジェクトマネジメントの遂行能力             写真1 阿部委員長ご挨拶             であります。また、修習ガイドブックの第3版、これは技術士会のHPからダウンロード出来ますのでご覧いただきたいのですが、その中のマネジメントの説明で、米プロジェクトマネジメント協会(PMI)が発行した  “PMBOK” (Project Management Body of Knowledge)という基準があります。この基準の中で、10の知識エリアの概要を参考として紹介しています。この事からも技術士には、プロジェクトマネジメント能力が必要だと判ります。定常型の業務をやられている方でも、今日のお話、例えばQ(品質)C(コスト)D(納期)の話、リスクマネジメントとか、たぶん業務に参考になりますので、その辺を生かしていただきたいと思います。今日も長丁場になりますが、最後までよろしくお願いいたします。

続いて本委員会 三村委員(衛生工学)の司会で、Web研修にける注意事項の説明と、
講師の経歴紹介が行われました。

     写真2 三村委員             図1 注意事項画面

3.講演会前半
続いて、講師の示野様からAGENDAが提示され、Ⅰ.プロジェクトとは、Ⅱ.プロジェクトマネジメントとは、Ⅲ.プロジェクトマネジメントの要素技術 の順にご講義がありました。    学生時代はボクシングに打ち込み、またバックパッカーとして欧州を放浪した経験がおありで、社会人としても建設プロジェクトの海外経験が豊富ということで、今回はその経験を元にしたご講義になりました。
エジプトのピラミッドや中国の万里の長城の建設の様に、プロジェクトの概念そのものは古代からあったはずで、それが近代になり世の中が複雑化するとともに、計画実行の困難さから、プロジェクトマネジメントの考え方が起こった事、プロジェクトは作業を完了させ終わらせる事、オペレーション(通常業務)は継続して仕事を行う事、の双方を見分ける必要があり、対極の概念である事を認識しなければならないということです。

    写真3 講師 示野様                図2 アジェンダ

また、プロジェクトにはPDCAサイクルは無く、オペレーションはPDCAサイクルがある事、必ずプロジェクトからオペレーションへのフェーズの移行が存在する事も示されました。    プロジェクトの定義から、講師の私見として
・新しいモノやサービス、状況を作り出すためのアクティビティ
・3つの条件(完了条件、協力条件、リスク条件)を伴う
・ユニークさ(個々のプロジェクトで異なる)
を包含すると考えるべきだということです。
何か建設すれば、運用していき、いつかそれが終了する事は、建設に限らずどの分野でも存在しますね。でもユニークさ=唯一さ、独特さ を考え方に含むのは、見落としがちです。この辺りが、建設・建築で創造したものが個性的になるための検討すべき事項なのかも知れません。プロジェクトで、環境や風土、生活習慣、法規制など、様々な諸条件を考慮せずに、無味乾燥なデザインを伴わないものや、環境に配慮しないものが生まれたとしたら、確かにその価値は作ったとたんに下がってしまうでしょう。では、ユニークさは具体的には何でしょう?皆さんのご想像にお任せしますが。

4.Ice Breaker
20分余りのIce Breakerは私も参加しましたが、参加者の皆さんは、今の仕事・業務から完了条件、リスク条件をさっと言えましたでしょうか。なかなか試されるセッションだったと思います。技術士の口頭試験も20分で、あっという間に過ぎてしまいます。
一部の方がセッションにお入りにならなかった様でしたが、積極的に入っていただけると講義の理解が深まると思います。 その後、管理工学、経営工学的側面のお話になりました。

   図3 Ice Breaker画面

5.講演会後半
マネジメント能力は、人と技術の組み合わせで向上する事、テクノロジーが存在する(固有技術と管理技術)事、日本の大学教育では、管理技術が軽視されてきた事、プロジェクトマネージャーに対するコンピテンシーは、“Talent Triangle ®PMI”といわれる図に象徴されるように、リーダーシップ、テクニカルマネジメント、戦略・ビジネスマネジメントの三領域からなり、人間系の能力に加えて知識・理論の要素が大きい事、また、PMBOKの10のマネジメント領域についても説明がありました(詳しくはPMBOK Guideや関連の図書をご覧ください)。
プロジェクトは何万のアクティビティからなり、コスト、スケジュール、リソース(人、モノ、カネ)と入力(情報、材料)、出力(成果物)を生成させるため、スコープ定義で2次元(または3次元の)Work Breakdown Structureを作成する事が必要である事、必ず各項目が終了しないといけない事が説かれました(ハンバーグ弁当づくりの例、東京五輪の例を挙げて)。プロジェクトの組織の形については、短期間なら機能型、外国企業に多いタスクフォース型、日本企業にあるマトリックス型が示されました。

計画についてはスケジュールネットワークの重要性、アクティビティリレーションの4つの種類、アクティビティのデュレーションを、ラグ(Lag)を含めて検討する事、クリティカル・パス(最も時間がかかる道筋)を見つける事。そして実行・監視については、アクティビティすべてのコストを出して金銭価値で測る(Earned Value(出来高))で予実管理を行う、EV Management System)。これでプロジェクトの進捗状況を評価する事が可能になります。

   図4 EVMSによる進捗評価の例

費用が掛からないようにプロジェクトの完成を少し遅らせる調整もまた可能とする考え方がある事は、会社組織では一般的かもしれませんが、ちょっと気づきません。ふつうは、何とか工期に間に合わせようというのが心情ですが。

品質マネジメントについては、品質保証(正しい事をする)と、品質管理(契約に基づき正しい事(モノ)を作るための管理)を区分して、プロジェクトで達成すべき品質は、契約で規定されるべき事、QualityとGradeの区別をする、という事です。プロジェクトで建設して、プラントがスペック通りのQualityの製品、材料が作れないと、Gradeの作り分けどころの話ではないですね。

また、リスクマネジメントについては、一般的定義や産業界の公式定義(ISO31000)とは別に、プロジェクトにおけるリスクが定義されています。そのリスクを挙げる際には、自由な発想で、思いつくまま出すのが良く、無用なものと考えない、リスクでなければ消せばよく、相手を批判しない事が重要である事です。ブレーンストーミングの考え方と似ていますね。

   図5  リスクマネジメント

つまりリスクとして挙げられなければ、評価される事も無いということです。

リストアップしたリスクについて、分析・評価とグレード化を行い、対処法の策定、継続監視を行う必要がある事は、リスクマネジメントのステップとして公表されていますので他書をご覧ください。

契約の話ですが、英語で“Contracts Director”という言葉があるように、これまでは契約は法に優先するのが原則(私的自治の原則)でしたが、最近は、見直されてきているとの事です。要するに、法を逸脱した契約はいけない、という方向に変わってきている事です。
また、代表的な国際契約条項の中に、Force Majeure(不可抗力)や遂行保証(互いの義務遂行を銀行に保証させる仕組み)があり、Acts of God(神の所為)=天変地異 が入っています。つまり両者の合意であれば、不可抗力と言える条項でもあるようです。
契約書の文言の一言一句は、お互いを逃げられないようにする厳しさがある一方、都合よくもできていると感じます。また、契約や規範の考え方は、時代によって変化するものである事も改めて感じられました。

さて、最後に課題が出されております。参加者の皆さんは回答されましたでしょうか。
講義をメモしていれば、回答できる問題が多いです。CPD参加票は課題の提出と引き換えになりますのでご確認願います。

6.閉会の挨拶
最後に、本委員会の松藤副委員長(建設)から、ご挨拶がございました。
示野講師、大変貴重なお話をありがとうございました。私は職業柄もあり主に道路の事業にかかわっておりますが、話を拝聴しまして、日頃のオペレーションと自分の関わるプロジェクトの違いが今回改めて判りました。今後自分のプロジェクトを実施するにあたって、オペレーションを停める・停めないというところは提案・提起していって良い、何がなんでもこうしなければ工事できない、と考える訳でもないのだな、と思った次第です。

  写真5 松藤副委員長ご挨拶      参加者の皆様も得るものが多かったと思いますので、きょう参加された皆様におかれましては、ぜひ本日の講義を業務に生かしていただければと思います。

7.さいごに
3時間以上の講義でしたが、いかがだったでしょうか。プロジェクトマネジメントの、ほんの入り口の説明でしたが、プロジェクトは、多様な条件、ユニークさも考慮して、かつその解は一意に定まらないという奥深さが、そして新たな価値は、そうしたプロジェクトの遂行を通じて達成出来るという事も、少し判ったように思います。
今日もどこかで、様々なプロジェクトが進行しているでしょう。技術士は、その中心にいて、遂行する位置にいなければ、という思いを新たにしました。修習技術者の方々も、技術士に求められるコンピテンシーの概念を理解し、業務を通じて自身の言葉で表現できる様に、本日の講義を生かしながら、日々鍛錬していただきたいと思います。
さて、2月の研修会は2/12(土)、「地域活性化と5G」です。5G(第5世代)通信を使った地方の活性化案を考えていこう、という企画内容です。ご期待下さい。
コロナウイルスのオミクロン株感染者が年明けから急激に拡大しております中、皆様におかれましても、くれぐれも身体にご自愛ください。

修習技術者支援委員会 委員 石川和真 (化学・総合技術監理)