高専生インフラテクコン2022技術士会賞受賞チームによる発表会
発表者:技術士会賞受賞チーム(呉高専、旭川高専、長岡高専、豊田高専)
みなさん、こんにちは!
修習技術者支援委員会委員の安藤(水産部門)です。
3/25(土)に修習技術者研修会をオンラインで開催いたしました。祝日にも関わらず77名(発表者と関係者を除く)の参加をいただきました。誠にありがとうございます。
さて、今回は高専生向けコンテスト第3回「インフラマネジメントテクノロジーコンテスト」(以下、インフラテクコン)で技術士会賞を受賞された4チームによる発表会でした。インフラテクコンとは、社会情勢の変化やニーズによって変化するインフラを、地元と技術に深い愛情を持つ高専生が、新たな価値やサービスのアイデアを出し合うコンテストです。高専生が地域課題に気づき、インフラの新たな役割を考え、そしてその過程で企業や地域行政とつながることを期待するコンテストでもあります。今回は、最終選考に残った「自由参加枠を含む13チーム」を、技術士の視点から審査し、その中から選ばれた4チームの発表です。各チームの発表は、技術士の方々を驚かせ、課題に真剣に取り組んでいる様子がうかがえました。では、以下にその様子をご報告いたします。
発表会は、奈良高専出身の森本委員の司会により始まりました。
司会 森本委員
1.開会挨拶
発表に先立ちまして、日本技術士会の寺井会長の代読者として河津副会長様と、本研修会の阿部委員長から挨拶がありました。河津様からは、作るための技術を学ぶだけではなく、なぜ作るのか考え、多様な社会の解決に向けた技術者になって欲しいとお話しされました。阿部委員長からは、技術士会賞では、最終選考に残った13チームを技術士の視点で審査したこと、技術士20部門の各部門や部会、地域本部から選出された方が審査チームをつくり、その中でコンピテンシーを基本としたルーブリック評価で審査したことをお話しされました。
開会あいさつ 阿部委員長
2.発表会(1部)
司会の森本委員より、参加にあたっての注意事項を説明後、発表が始まりました。
- チーム名:オイスター☆ディザスター(呉高専)
提案名:牡蠣殻の可能性を信じる
提案概要:下水処理システムの課題(老朽化、財政不足等)と牡蠣殻による景観悪化と悪臭、加えて水産資源の減少等に着目し、牡蠣殻(廃棄物)を活用することで、下水処理に必要な電力の大幅な削減と、アクアポニックス(水産養殖と作物の水耕栽培を組み合わせたシステム)、処理廃水による作物生産の下水処理システムを構築し、下水処理と牡蠣殻問題の両方の解決策を提案されました。提案にあたっては、自ら小型の実験装置をつくり有効性を検証するとともに、今後は、長期のデータ収集とともに、実験規模拡大することによるコスト面の検証を行い、利用の拡大を図りたいと発表されました。この発表はアイデア満載の発表でした。
発表後、審査員より、多部門(上下水道、衛生工学、環境)にわたるユニークなアイデアと高く評価されました。また、実用化に向けてのボトルネックとなり得る部分の洗い出しと検討をお願いされました。発表者の小林さんからは、実用化に向けて様々な課題と問題点が整理できました。今後も技術開発に取り組みたいと述べられました。
本チームは、「複合的な問題への挑戦と継続的なアプローチ、そして、高い問題解決能力」が認められ技術士会賞を受賞されました。
- チーム名:チームぽんぽんぽんきち2.0(旭川高専)
提案名:上下水道3Dプラットフォームから始める「スマート・ライフライン」
提案概要:上下水道管はDX化が遅れていることに着目し、「紙図面とデジタル図面からの3D上下水道管の作成機能」「3D上下水道管の表示機能」「現場における3D上下水道管の登録機能」を持つ上下水道3Dプラットフォームを開発することで、人材不足と上下水道管等工事の効率化が図られる「スマート・ライフライン」を提案されました。また、彼らはこのシステムで起業することを目指しており、そのための詳細な事業戦略ビジョンも発表されました。この発表には高い技術力に驚かされました。
発表後、審査員より、興味深い発表に驚くとともに、2年間における達成度を高く評価されました。また、実用化が期待されることから、実用化に向けて、システムの拡張性やセキュリティ、管理者と工事事業者の情報の流れの管理など具体的なアドバイスをいただきました。さらに、これらの開発にあたっては、機械学習、画像処理の知識をほぼ独学で、野心的に取り組んでいることに感心されていました。発表者の井上さんと大縣さんは、取り残されている小規模水道に対応できるこのシステムを、卒業しても後輩と一緒に開発を進め早く起業してみたいと強く語ってくれました。
本チームは、「社会とのつながりと技術者としての責任、高い技術者倫理観」が認められ技術士会賞を受賞されました。
- チーム名:Be-Mice(長岡高専)
提案名:はしおし!
提案概要:長岡市内に多く架かる橋の老朽化と建設業界の人材不足に着目し、様々な世代に対して建設業界やインフラメンテナンスに興味を持ってもらうため、市⺠向け体験型イベント「はしおし」を開催したことを紹介されました。このイベントは延べ1,000人以上の来場者が集まったそうで、それを学生30名が企画し、18の企業を巻き込んで成功させました。さらに、学生は2年程度で入れ替わることから、イベントを継続するためにノウハウを継承できるマニュアル作りを説明されました。現在、次回8月20日(日)のイベントに向けて取り組んでいるそうです。阿部さんの発表は素晴らしく、この日のために毎日練習されたそうです。シンプルなスライドを、メリハリを利かせてわかりやすく説明されました。プレゼンテーション能力の高い発表でした。
発表後、審査員より、プレゼンテーションの高さを評価されるとともに、ぜひ一緒にイベントをしてみたいと嬉しい評価をいただきました。また、土木工学専攻でない学生の参加が、建設業界の専門用語をわかりやすくし、一般の方々に伝えわりやすくなっていること、アンケートで「はしおき」の波及効果を把握し、次に活かすことも高く評価されました。阿部委員長からは、2年間で学生が企業を巻き込みリーダー的に取り組んだことを評価され、今後は、建設業界の就職離れの本質をもっと知ってもらえるように、多くの学生を巻き込んで欲しいとお願いされました。
本チームは、「企業と学生を巻き込みイベントを開催、高いリーダーシップ能力」が認められ技術士会賞を受賞されました。
- チーム名:大畑・早坂Lab(豊田高専)
提案名:ドローン画像を用いた橋梁点検支援システムの開発!
提案概要:笹子トンネルの事故をきっかけに、管理者の道路等の点検が義務付けられているものの町役場や村役場には技術者が少ないことに着目し、ドローンやカメラで撮影された写真から劣化度合をAIで推論し、それを自動で出力するウェブアプリケーションを開発したことを発表されました。2年目のデータ入力では、豊田市の橋梁点検写真(約1万枚)を市より借用してAIが開発され、正解率72.3%に達成されたようです。なお、この発表は、発表者が今春に卒業したため動画での発表でしたので、質疑応答はありませんでした。
本チームは、「社会での活躍を検討しさらなる改善意欲、高い継続研鑽の意識」が認められ技術士会賞を受賞されました。
2.発表会(2部)
第2部に入る前に、インフラテクコン事務局の田村様からの講評とお礼が述べられました。
インフラテクコン2022主催者からあいさつ 事務局 田村様
その後、小林委員補佐の進行でパネルデスカッションが始まりました。パネルデスカッションは、発表者の方々と3名のパネラーで構成され、事前用意された質問をもとにディスカッションが行われました。
高専生は、発表は緊張したが、自分たちの提案が伝わったことに一定の満足感があったようです。また、提案するまでの苦労話し、他校の技術レベルの高さをお互いにリスペクトし、刺激になったことを語ってくれました。今後はこのような経験を糧に、引き続き積極的に取り組みたいと、彼らの頼もしさを感じました。パネリストからは、「知識不足を補うために独自に勉強して技術力の向上を図ったことに感心した。」「今日のネタは十分技術士になれる素材なので、ぜひ技術士になってください。」などの応援の言葉をいただきました。
高専生からは「技術士の資格はどのように役立ちますか?」と言う質問に対しては、公務員の場合は、専門分野の資質能力の向上と人材育成につながるばかりか、専門外の分野との関わる際にコミュニケーション能力が役立つことをお話しされました。民間企業の場合は、お客様の信頼度につながることをお話しされました。また、起業を目指す学生からは「起業する際に最初に取り組むべきことは何ですか?」の質問に対しては、企業ビジョン、社名、人脈などが大事であることをお話しされました。パネルデスカッションは、終始リラックスしたムードでディスカッションが行われ、大変有意義な時間になりました。
3.阿部委員長のまとめ
阿部委員長から「発表お疲れ様でした。今日の経験を財産にして、人生に活かせて欲しい。特に、旭川高専の提案された技術は、ライフラインだけではなく、他分野にも利用できると思いますので大いに期待しています」とお話しされました。高い技術力とコミュニケーション能力をもつ高専生らを、これからも応援して行きたい気持ちが伝わってきました。
4.講評
研修会の締め括りには、片岡副委員長から振り返りと講評がありました。「どれも質の高い内容でした。技術士から実務的な質問が出たので、これを持ち帰り新たな開発に活かしてください。皆さんの成長にこれからも注目しています。」とお話されました。
私たち修習技術者支援委員会一同は、今後も若い技術者のご活躍を期待しています。
本委員会 片岡副委員長の講評
以上
修習技術者支援委員会 委員 安藤 亘