こんにちは!修習技術者支援委員会委員の葛西です。
さて、5/18(土)の研修会は「ビジネスと人権」です。会場とWebで開催し、WEB参加 27名(会員21名、非会員6名)会場参加 5名(会員4名、非会員1名)計 32名の方にご参加いただきました。
今回の研修会は弁護士の伊藤和子先生をお招きしてご講演いただきグループワークを行いました。研修会の主担当は石黒委員、司会のご担当は三塚委員です。
1 開会挨拶
はじめに修習技術者支援委員会の石川委員長のご挨拶がありました。

2 研修会
講演「ビジネスと人権」~事業や技術が人権侵害を生まないために~(13:10-14:25)
講師:伊藤 和子 先生
(ミモザの森法律事務所代表、NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長/弁護士)
講師の伊藤和子先生は、2012年ミモザの森法律事務所開設。2021年より国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ副理事長を務められています。
主な取扱分野としては、企業法務から女性の権利に関する分野など幅広く活躍されています。

ご講演内容はビジネスを行う上での考慮しなければならない人権についてでした。私も企業人ではありますが人権とビジネスを関連付けてのご講演ははじめてでした。ここまでビジネスに関連づけて説明いただきとても分かりやすく理解できました。
今回は特に印象に残ったことについて述べてみたいと思います。
国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)
最初に国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)について学びました。
国家は国際人権保障を国家の役割として担っていますが、最近の企業はグローバルに活躍している企業が増えているため、企業に対しても国連レベルで人権尊重が求められています。国際化が進展しているため、2011年に国連人権理事会で全会一致で承認されました。
これに対し、日本政府は2020年国別行動計画を策定し、2022年人権デューディリジェンスガイドラインを公表しました。国際的にはこのレベルまで要求されていることと、日本政府もその要求に対応していることを理解しました。
指導原則の3つの柱と人権尊重
指導原則についてご紹介をいただきました。
第1の柱:国家の人権保護義務(原則1~10)
第2の柱:企業の人権尊重責任(原則11~24)
第3の柱:救済へのアクセス(原則25~31)
そのなかでも注目すべき点として、企業は第2の柱を意識しなくてはなりません。
国内の人権に対する考え方は、まだ国際的なレベルまで達していないのが実情のようです。そのため国内の多くの企業は「国際人権基準」を勉強しはじめているとのご説明でした。企業が人権侵害していない、助長していなくても、取引しているサプライヤーやバリューチェーンにかかわるところまで責任を求められることが国際的なレベルです。特にバリューチェーンに関するところは、把握しづらいですが、防止または軽減する務めが必要です。私たち技術を担当する者は、バリューチェーン全体のなかで負の影響が起きる可能性があることを念頭に置かなくてはならないですね。
企業の人権責任を「人権デューディリジェンス」で管理
人権デューディリジェンスとは、「人権に対する現実または潜在的な負の影響を特定し評価する」「人権への負の影響を防止し、または軽減するために適切な措置をとる」こと、つまりリスクアセスメントをすることです。そして検証追跡調査をすることです。実効性の可否を調査し、より実効性あるものに変えていくことです。そしてここが大事!「負の影響への対処を対外的に示しステークホルダーに開示する」つまり情報公開し、ステークホルダーとの対話が」重要であるとご説明いただきました。
企業の人権責任においても、マネジメントシステムで管理し、情報公開することで実効性のあるものにしなければならないことを理解しました。
人権問題を放置すると、株価の影響を受けるなど、また訴訟や刑罰を受けるなどの法律問題に発展し、企業へあらゆるリスクが大きく高まってしまいます。
「人権が保障されなければ、持続可能ではない」という考えの活動が大事ですね。
テクノロジーと人権
私たちのように技術に携わる者が注意しなければならいないことですね。インターネットビジネスや監視技術では人権尊重を念頭に、開発や使用を心がけるべきです。AIの技術では「AIがつくるのだから仕方がないだろう」という見方があって、責任問題をどうするか議論が始まっています。また、AI・ドローンの軍事利用にも着目されています。
現在の技術に基づいた具体的な説明でしたので、非常にわかりやすく理解できました。私たち技術者が、技術者倫理を全面的に引き出して、AIに支配されないような社会を構築しなくてはならないと意識付けができました。
最後に、伊藤先生から「私たちは、世界と日本で起きる人権侵害にとって無力な存在ではなく、未来を創る主導権は私たち一人ひとりにある」と述べられて、私は大きな気づきを得ました。
講演終了後、質疑応答が活発に行われましたが、伊藤和子先生は質問者に対して的確に回答いただきました。ご丁寧に回答いただきありがとうございました。
3 グループワークと発表(14:35~17:15)
主担当の石黒委員よりグループワークについて説明があり、A~Fの各班で質疑応答を通じて活発に意見交換が行われました
グループワーク1
「人権に関して講演の感想を自由に語り合い。」
グループワーク2
ワーク1 「持続可能な社会の実現のためにあなたの業種で行っている取組みを挙げてください。」
ワーク2 「ワーク1のなかで出された取組の中から2つ選択し、取り組みの結果、人権侵害の可能性、人権を守れる可能性を考えてください。」
グループワーク3 「余裕がある班は、解決策、今後技術士としての業務で人権のために取り組みたいことを話し合ってください。技術的解決策でなくても構いません。」


グループ発表のメインとなった、グループワーク2について取り上げてみました。
環境負荷の問題、労働環境、生産性向上、気候変動問題など、多岐にわたるテーマが取り上げられました。各班がそれぞれの視点から課題と解決策を提示し、質疑応答では実務に根ざした質疑応答が交わされました。
A班:生産性向上と気候変動対策
生産性向上では「長時間労働の是正」と「標準化・スキル向上による生産性向上」を軸に、ステークホルダーとの合意形成の重要性を強調しました。また、気候変動対策としてクラウド化によるエネルギー削減や、国交省通達による工期1.5倍化の必要性を提示しました。
「管理職が休日に働く負担をどう減らすか」という質問があり、人権保護の視点で業務分担の見直しがポイントとなりました。
B班:パート・外国人労働者の雇用と賃金問題
建設分野で進む多様な雇用形態に着目し、低賃金労働の固定化を防ぐための法規制やエシカル消費の必要性を説明しました。 まさに現在の人権問題の核心であると思いました。
「最低賃金があるため実際には低賃金化は起こりにくいのでは」との質問があり、私は制度と現場のギャップがあるのではと感じました。
C班:完全週休二日制と再造林の実施
ワーク・ライフ・バランス向上のための完全週休二日制導入と、再造林による生活環境保護を提案。
ワーク・ライフ・バランス向上の件で「もっと働きたい人の所得減少をどうするか」という問いがあり、単価引き上げや社会貢献意欲とのバランスが話題となりました。
この質疑応答は、私たち技術者にとって人権に関する現実的な話題だと感じました。
D班:EV・燃料電池の環境負荷と電子部品のモジュール化
コバルト採掘に伴う児童労働問題や、膜の環境負荷を踏まえた代替技術の必要性を説明。電子部品のモジュール化による業務負荷の偏りも課題として挙げていました。
「リチウムイオン電池の発火リスクと廃棄物負荷」について質問があり、そこで働くひとの人権も保護が必要ではないかと、環境負荷も含めた人権について深堀りする意見がありました。
E班:設備の長寿命化と商用電源を使わない設備
予防保全による設備長寿命化と、太陽電池・バッテリーなど商用電源を使わない自立型設備の可能性を紹介。私は可能限人を介さない点でなるほどだと思いました。一方で材料の環境負荷や処分方法の課題も指摘した。
「管理部門の負荷や申請業務の増加」を懸念する質問があり、現状ではユーザーの責任で行うことが共有されました。
F班:風力発電の騒音問題と鉄道工事の夜間作業
風力発電の低周波騒音や景観問題への対応として、早期のアセスメントとステークホルダーとの合意形成を提案。鉄道工事では夜間作業の負担軽減のため、昼間工事の拡大や工期1.5倍化の必要性を示しました。
「騒音が問題なら他の発電方法は?」との質問があり、基数削減や列車運休による昼間工事など、現実的な代替案が議論されました。
たしかにできるだけ昼間に工事ができれば働く人の負荷も減っていいと思いました。
全体のまとめ
各班の発表は、環境負荷の問題、労働環境、生産性向上、気候変動問題といった複合的課題を多角的に捉えていました。質疑応答がすばらしかったと思います。
共通していたのは、単なる技術論ではなく、制度・現場・社会の三者をどうつなぐかという視点だったと思います。
持続可能性の実現には、技術革新だけでなく、働き方改革、法制度、ステークホルダーとの対話が不可欠であることがわかりました。
人権という普段あまり取り組まないテーマであっても、各班ともしっかりと結論づけされていました。質疑応答も活発に行われて、みなさん本当によいグループワークでした。
4 伊藤先生 総評
伊藤先生よりグループ発表について総評をいただきました。
「みなさんが得意とする技術の視点と、そして人権の視点を結び付けて発表していただいていてよかったです。今後もそのように取り組んでいただくことをお願いしたいです。
サプライチェーンのなかでの不平等の問題や声をあげにくい問題があって、非常にむつかしい問題ですがそこが解決できる良い方法が見つかることを願っています。
建設業界では少しではありますが、動きがあり良くなりつつあります。業界全体でも声を上げれば上げるほど良い傾向になると思いますので、一人ひとりが声を上げていってほしい。その声がきっかけとなり、業界自体が変わることを期待しています。」
5 閉会挨拶と参加者集合写真
最後に、谷本副委員長による閉会の挨拶をいただきました。
本日はみなさまおつかれさまでした。本日のテーマはビジネスと人権でした。普段の業務のなかでは感じることができないような視点でご講演いただき学ぶことができました。人権にかかわる具体的な事例もご紹介いただき、私自身の身近な話題であり厳しいご意見もいただいたと思っています。
本日の研修会に参加したみなさんは、技術士に求められるコンピテンシーのうち「技術者倫理」の部分を獲得できたと思います。それに加えて「技術士倫理綱領」10項目あるうちの、9項(相互尊重)には「技術士は、業務上の関係者と相互に信頼し、相手の立場を尊重して協力する」と書かれていて、「(1)技術士は、共に働く者の安全、健康及び人権を守り、多様性を尊重する。」とあります。これだけを見ると人権は身近な取り組みであると思います。本日の伊藤先生のお話では、グローバルな視点、自分の関わっている仕事が人権を侵害していないだろうかと感じたと思います。職場に持ち帰って技術士倫理綱領の「人権を守る」を理解してもらって業務にあたっていただきたいと思います。

6 研修会終了後の会場参加者による情報交換会
研修会終了後、現地参加者は居酒屋に場所を移しての情報交換会を行いました。伊藤先生にもご出席いただき、非常に楽しく有意義なお時間だったようです。現地での情報交換会とは別に通常、オンライン参加者による情報交流会も開催しております。オンライン参加者の皆さまもぜひご参加ください。

7 所感
本研修会では、人権というむつかしいテーマのように思えましたが、伊藤先生のご講演では具体的な事例をご説明いただき、非常にわかりやすい研修会でした。この人権の問題は、企業としては人権デューディリジェンスで管理することがいいと思いますが、何よりも一人ひとりの自覚が最も大切だと思いました。
伊藤先生のご講演でもございました「声を上げる」ことに大きなヒントをいただきました。声を上げるためには、声をあげられるような環境づくりが必要で、職場のなか、協力していただく会社との日頃のコミュニケーションが大事ですね。技術士に求められるコンピテンシーにも「コミュニケーション」があります。共に働く人の人権を守るためにも、良いコミュニケーションを心がけたいと思いました。
今回はじめて、ブログをご覧になった方、ぜひ研修会にご参加ください。業務や日常の生活に大きなヒントがもらえますと思います。
(文責 修習技術者支援委員会 委員 葛西 正浩)