2023年9月度修習技術者研修会

修習技術者支援委員会委員補佐の新海です。202399日(土)の研修会は「基本修習課題全般:専門技術能力/業務遂行能力/行動原則」です。修習技術者および技術士の合計20名が参加され、基本修習課題全般に関する事例「イノベーションの社会的受容」の紹介、およびグループワークと発表を行っています。

(会場の模様)

技術者は、新しい技術を開発していくだけでなく、その技術が人々に受け入れられるために、デメリットやリスクも人々に説明する必要があります。新しい技術が人々に受け入れられるために説明する機会は、通常の会社業務では少ないと思います。この研修会では、業種も年代も多様な人々とグループワークを通して、基本修習課題全般を学ぶことがテーマです。

開催

小林委員補佐の司会進行で進みました。

司会進行 小林委員補佐

1 講演

本研修ではグループワークおよび発表がメインでありました。最初の30分間、本委員会の副委員長である名平講師によるイノベーションについて、説明、技術士に求められること、グループワークの方法、そして以下の事例の紹介がありました。

講師 名平副委員長

1-1 生成AI(対話型AI

最初の事例は、Chat GPT等で最近話題になっている生成AIです。

利用者が音声やテキストで入力すると、自然な文章を生成して応答する人工知能です。生成AIの活用について、適切でないと考えられる例と活用が考えられる例をいくつか取り上げました。

生成AIの活用による懸念点が多く示されていました。しかし、上手に活用することにより、業務の効率化、グループワークでの議論の深まり、および高度なプログラミング等が実現可能であると思いました。

グループワークのヒントとして、以下2点の説明がありました。

・学校など教育機関において、論文やレポートの不正を防ぎつつ、生成AIを活用するためにはどうすべきか?

・企業において、生成AIを積極的に活用するために、上層部にどう説明すべきか?

事例1 生成AI

1-2 電動キックボード

続いての事例は、最近道路で多く見かけることとなった、電動キックボードです。

電動キックボードは道路交通法上において、車両の扱いになります。2023年7月1日の改正道路交通法施行に伴い、16歳以上なら免許不要で運転可能となりました。フランスでは約200都市でシェアリングサービスを展開していますが、首都のパリでは住民投票の結果、2003年8月末で同サービスが終了したため、電動キックボードに対する規制がかかったと思いました。

グループワークのヒントとして、以下の説明がありました。

・気軽な移動手段として、電動キックボードのシェアリングサービスを受け入れてもらうには、どうすればよいか。例えば、ミドル世代(35歳~54歳)、シニア世代(55歳以上)

事例2 電動キックボード

1-3 リモートワーク

続いての事例は、コロナ禍で多くの企業が導入したリモートワークです。

コロナ禍において、緊急事態宣言等の発令により週に3日以上、リモートワークを実施した人が過半数になりました。しかし、2023年のコロナ禍終了に伴って、リモートワークの頻度が減らした人が多くなりました。

一方、大学や学校ではオンライン授業の有無や不満な点の説明がありました。

グループワークのヒントとして、以下2点の説明がありました。

・リモートワークをうまく活用した多様性のある働き方を企業が受け入れるためにはどうすればよいか

・対面授業/オンライン授業をバランス良く組み合わせた授業形態が受け入れられるために、どうすればよいか?

事例3 リモートワーク

1-4 高齢者のスマートフォン活用

最後の事例として、日本の総人口の約3割を占める高齢者のスマートフォン活用です。

70歳代における携帯電話の種類において、スマートフォン活用が5年前は約半数でした。2023年現在、約8割の70歳代の人がスマートフォンを活用しています。また、携帯電話所有率も地域によって差があります。

グループワークのヒントとして、以下の説明がありました。

・フューチャーフォン(ガラケー)を利用している高齢者に対し、スマートフォンを積極的に活用してもらうには何をすべきか。

事例4 高齢者のスマートフォン活用

2 グループワークの準備

本研修会でのグループワークのテーマは以下の通りです。

・イノベーションの事例を1つ取り上げ、新しい技術が人々に受け入れられるために何をすべきかを議論する

事例については上記1-1~1-4の他、それ以外のイノベーションについても取り上げて良いことになっています。

グループワークは以下の(1)で約30分、(2)と(3)で約75分実施し、その後は発表および質疑応答((2)と(3)のみ)がありました。

(1)グループ討議で議論するイノベーションの事例を決めてください。検討対象とする人々についても具体的に決めてください。

(2)対象とした人々にとって、社会的受容の観点で何が問題か考えてください。

(3)(2)で取り上げた問題を解決し、人々が有用性や使用容易性を知覚するにはどうすればよいか、解決策を考えてください。

グループワークのテーマ

3 グループワーク&発表

Web参加者3チーム、会場参加者2チームに分かれ、グループワークに取組んだ。先の事例の中およびその他からグループで話し合う選定テーマを1つ選び、選定テーマおよび対象とする人々をグループで話し合い発表します。最初に自己紹介と役割(進行、書記、発表、他チームの質問への回答、他チームへの質問担当)を決めスタートしました。

A班:高齢者のスマートフォン活用

A班では、電気電子部門2名と情報工学部門1名、上下水道部門1名、衛生工学部門1名の5名にて事例1-4を取り上げて検討がなされました。

A班の模様(グループワーク)

B班:生成AI

B班では、建設部門2名、電気電子部門2名、機械部門1名にて事例1-1を取り上げて検討がなされました。

B班模様(グループワーク)

C班:リモートワーク

C班では、情報工学部門2名、機械部門2名、電気電子部門1名の5名にて事例1-3を取り上げて検討がなされました。

C班模様(グループワーク)

D班(会場):リモートワーク

D班では、機械部門3名、建設部門2名にて事例1-3を取り上げて検討がなされました。

E班(会場):リモートワーク

E班では、機械部門1名、建設部門1名、衛生工学部門1名、電気電子部門1名にて事例1―3を取り上げて検討がなされました。

D班、E班模様(グループワーク)

4 講評

講師を務めた名平副委員長から各班に対して講評がなされた。

A班の『高齢者のスマートフォン活用』では、「8割の高齢者の方がスマートフォンを活用している。残りの2割の方が活用しないが、その差を観点として深堀してほしい。」との講評でありました。

B班の『生成AI』では、「リスキルニングという言葉が出ていたのはよかった。生成AI自身が正確でなかったりする場合があるため、正しい知識を身に着けることが大事である。」との講評でありました。

CE班の『リモートワーク』では、「細かく、具体的な解決策を出してくれたのが良かった。しかし、どれも総論的な内容ばかりでもっと対象者をターゲットにして突っ込んだ内容の方が良かった。」との講評でありました。

講評の模様(名平副委員長)

5 閉会挨拶

研修会の終了にあたり石川副委員長から閉会の挨拶があった。
「本日は、時間が短い中で難しい課題に取組んでいいただきました。本研修ではコンピテンシーの点からいうとマネジメントに相当すると思います。特に、イノベーション事例の対象者を絞ってグループワーク、発表を行ったことからマネジメントの中の人的資源に相当すると思います。また、社会実装の成功・失敗事例として三菱総合研究所のアンケート結果を紹介し、社会情勢によって成功・失敗は変化するので、技術士としてはそれらを加味して対応する必要があります。」

閉会挨拶(石川副委員長)

おわりに

グループワークの時間は、前半30分、後半75分でしたが、前半終了時点で既に後半について議論しているグループもいました。バックグランドも年代も異なるチームでの検討・議論でしたので、他では得られない貴重な機会だったと思います。

以上