2025年5月度修習技術者研修会開催報告

2025年5月度研修会(令和7年5月10日 13:00~17:15)
ブログをご覧になっている皆様、こんにちは!
5月度ブログ担当の修習技術者支援委員会の鬼鹿毛です。今回の実施概要・課題、講師は以下の通りです。
〇実施概要・課題
役に立つ技術者倫理 ~技術士に求められる倫理とは?~
 (基本修習課題「行動原理」、資質・能力「倫理」)
今回は『今日一日、この一年、専門的職業人としての節目を迎えたときなどに、仕事を振り返った際、この仕事をやっていて良かったな、大変な事もあったけれど充実していたなと思いたくありませんか?』という委員会からの問いかけや研修テーマに興味を持ってくれた皆様と共に、日頃の行動における技術者倫理について、講演やグループワークを通して、意識を深めました。
〇講師:大来 雄二(おおきた ゆうじ)氏
(金沢工業大学 科学技術応用倫理研究所 客員教授)
(NPO法人 次世代エンジニアリング・イニシアチブ 理事長)
大来先生には「ノーネクタイ・カジュアル」でのご参加をと、委員会よりお願いいたしました。
〇司会進行:修習技術者支援委員会 谷本委員(衛生工学、総合技術監理)
研修会司会は初めてとのことでしたが、和やかで落ち着いた進行は見事です。この日のために新たに買ったモバイルモニタも活躍です。
本研修会は機械会館  の会場参加とオンライン参加のハイブリッドで行いました。会場参加17名、オンライン参加24名の41名でした。

1.研修概要

「役に立つ技術者倫理 ~技術士に求められる倫理とは?~」
大来講師による講演が行われました。講師が大学で初学者向けに行っている技術者倫理の講義をベースに、修習技術者向けにアレンジした内容(技術士に求められる倫理とは何か等)でご講演されました。講義90分の後、参加者が7グループ(会場3グループ、Web 4グループ)に分かれて、講義の内容についてグループワークで検討を深め、発表を行いました。

2. 講演

2.1 講演(13:10~14:40)および講師自己紹介

最初に自己紹介をされました。「既成概念としての『工学』および『工学教育』の枠組み自身を問い直し、そのあるべき姿を具体的に提言し、教育の場で実践する」と目標を掲げられ、電気学会や大学、NPOでの活動を推進しておられます。
講演会場風景

2.2 事例集(講師著書)のご紹介と説明

電気学会倫理員会編の倫理事例集を(3冊)の作成にも参加出されています。会場でも事前に予習のために購入した人が何人かおりました。司会の谷本委員もその一人。
・事例を扱う意義~何のための事例集か~
「何のための事例集か」について、第1集のまえがきよりご紹介いただきました。また、今回は、講師自身が実際に遭遇した事例をいくつかご紹介いただきました。その中で、車を運転中に自転車とすれ違った時の事例が印象的でした。次のような事例です。
・印象的だった身近な事例
狭い道でしたので、事例では車を止め、自転車2台を通過させたそうです。このとき、自転車の一台がよろけて車に接触しました。車は止まっているので、車に責任はないのは明らかです。周囲の人も車が止まっている状況を見ている。接触した自転車は(子供)そのまま走り去った。車を見たところ傷はなく汚れが付いた程度で、拭けば取れた。という状況でした。
その後、お知り合いの自動車ディーラと話されたそうです。ディーラからは、「だめです、警察にすぐに届けるべきでした。後日子供の親が、事故が原因でケガをしたと言われても反駁できないでしょ」とのご指摘です。
会場参加者へ「どう振舞うべきだったと思うか」を投げかけられました。自動車教習時には、このようなトラブルを避けるためでもありますが、必ず警察に届け出を行うように教えています。自分は止まっていて全く悪くなく、また車に傷といえるものもなく相手もその場を立ち去っているケースで、そこまで考えて行動できるか、考えました。
倫理を考えるとは広い概念のように思います。「技術を導入した後を考える」という将来への影響も含まれますので、ある意味でこの事例も重要と感じました。
そのほかにも技術者視点で重みのある次の事例をご紹介いただきました。
・新幹線と地震対策
阪神淡路の地震から安全性を考え、日本中の新幹線設備の強化に着手しました。この際に、強化工事に優先順位付けを行っています。比較的急を要すると判断した長野市近辺場所  の強化を行い、その結果、先の地震の時に大きな効果を発揮した。
・島秀雄氏と技術者倫理
もし東海新幹線が開発されていなかったら、私たちの生活はどうなっていたか、多様な人の立場で想像してみよう。
・リニア中央新幹線
電力システムの視点から、私も全く知らなかった事実・状況に気づかされました。

2.3 技術者倫理の基本の説明

「技術者倫理」とは何か?等、倫理の基本・基礎となる「ことば・項目」を挙げて、ご説明いただきました。今回は講義時間の関係上、簡単な説明となりましたが、下記5項目に関して、事例集にてしっかりと説明されています。
(1)倫理
(2)技術(テクノロジー)と技術(エンジニアリング)
(3)技術者倫理とエンジニアリング・エシックス
(4)技術者倫理と技術倫理
(5)技術者倫理と技術士倫理

2.4 技術士倫理綱領(改訂等)のご紹介と説明

「日本技術士会の倫理綱領改定」について、改訂改定の理由や背景を簡単にご説明いただきました。これから技術士を目指す修習技術者の皆様にとっても、非常に重要な内容なので「技術士倫理綱領への手引き」を見て、学習しましょう。
日本技術士会HP(https://www.engineer.or.jp/c_cmt/rinri/)を熟読ください。2023年3月に改定しています。事例集など多くの資料が掲載されています。
2.5 事例のご紹介と説明
2.5.1 チャレンジャー号事故
「チャレンジャー号事故の今日的意義」を題材に、技術者倫理について紹介されました。登場人物が、各々の立場でどういった要因やプレッシャーがあったかを具体的にご説明されています。
チャレンジャー号事故は、技術者倫理で必ず取り上げられる必須の事案です。もし、ご存じでない方がいれば、これを機に必ず勉強されることを強くお勧めします。(参考資料を文末に掲載)
倫理の教材にて、様々な視点から分析されています。決して古くなることはないと思います。組織内の意思決定の在り方、客観的事実の説明、会社がおかれた状況など、現在でも十分参考になりますし、今日的な意義も深く考える機会になると思います。
また技術士会の倫理事例集にもチャレンジャー号の事案は載っております。これは、当時の技術士会メンバーがまとめた内容です。(私も初めて知りました。)
2.5.1 良い結果を出す組織・企業組織の劣化度
事例から「良い結果を出す人と組織」についてもご紹介いただきました。企業内技術士や修習技術者にとって共感しやすい事例であり、より倫理の意識を深めることに繋がる内容でした。組織の「劣化度」については、とても納得できました。大きな会議などでは、仲間だけで固まったり、会議の主催者が議題に関する質問をしても、意見を述べなかったり、いくつかのポイントがあるようです。
今回の研修会でも講演中の講師からの問いかけで「発言するまでの時間」などを見られていたようです。私たちの研修会の「劣化度」はどのように判定されたのか、気になります。

3. グループワーク

技術者倫理のテーマのもとに、5~7名1グループとして7つのグループに分かれてワークを行い、発表しています。グループワークは1時間ほどですが、いろいろな組織・技術部門・年代で集まり、率直に意見交換できる良い機会だと思います。

3.1 状況設定

さてグループワークでは次のように「状況設定」を行って進めました。
修習技術者資格を取得してから5年ほどたったある日、あなたは職場のリーダーから次回の職場ミーティングはウェルビーイングをテーマにするので、事前によく考えてくるようにと言われた。
具体的指示は次の通り。
『自分の職場生活を振り返って、ウェルビーイングの視点から重要と思われることを話してほしい。皆で意見交換して、職場のウェルビーイング向上のための行動指針としてまとめたい。』
 【用語の定義】ウェルビーイングとは
・身体的・精神的・社会的に良い状態にあることをいい、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる持続的な幸福を含む概念。
・多様な個人がそれぞれ幸せや生きがいを感じるともに、個人を取り巻く場や地域、社会が幸せや豊かさを感じられる良い状態にあることも含む包括的な概念。
 (出所:「第4期教育振興基本計画」文部科学省)

3.2 グループワーク

グループワークの流れは次の通りです。まずリーダー、書記、時計係、発表者、他のグループ発表への質問者、ファシリテータの役割分担決めます。その後、ワークに入ります。
・ワーク1:自己紹介(氏名、技術部門、専門技術等、1分程度)。チーム名と役割分担を決める。
・ワーク2-1:【事前学習】資料「主観的ウェルビーイングの測定法:国際標準の現状と今後の展望(石川善樹、高野翔 ウェルビーイング学会)」から修習技術者として何を学んだかを紹介しあう。そして、グループとしての学びをまとめる。
・ワーク2-2:【事前学習】資料「第4期教育振興基本計画(文部科学省)」からの学びを紹介しあって、要点をまとめる。
・ワーク2-3:皆さんの今までの経験の中から「ウェルビーイング」につながりそうな事例を紹介する。
・ワーク3:職場のウェルビーイング向上のための行動指針を考え、発表する。
          グループワーク風景(会場およびオンライン)

3.3 グループ発表

発表は、PowerPointを使って各チーム5分程度にて「職場のウェルビーイング向上のための行動指針」とその根拠を発表しています。
発表に対しては、他の班からの質問と回答が行われています。

3.4 講師講評

講師からは「折角、事前資料が参加者自身の手元にあるので、資料を上手く活用してほしい」とご説明頂いた。たとえば、生成AIで答えを出してみるなども。実直に取り組む真面目なだけが必ずしも良い議論ではない場合もあると感じました。
講義中の大来講師は「優しい語り口」でご説明頂き、またグループワークでは会場内のチームの議論にも少し参加いただく機会がありました。
先生からは語り口は穏やかで優しい一方、内容は核心を突いており、理解を深める良い機会となりました。

4. 閉会挨拶と参加者集合写真

4.1 閉会挨拶 修習技術者支援委員会 石川副委員長(化学、総合技術監理)

石川副委員長に閉会の挨拶をいただきました。ウェルビーイングを測定する5つの要素についてもご紹介いただきました。ウェルビーイングは、最近の小学生~高校生は学んでいますが、卒業した私たちにとっては学びの機会が少なく、今後も勉強しつつ研修などに参加して、いろいろな意見に触れたいと思います。

4.2 参加者集合写真

会場参加者および、スクリーンにはWeb参加者を映して、集合写真です。

5. 研修会終了後の会場参加者による情報交換会の様子

毎回、研修会終了後、懇親会会場(居酒屋)に場所を移して情報交換会を開催しています。また、Web参加者も、オンラインにて情報交換会を開催しています。
先生を囲み、親しく飲めたのは、会場参加の利点です。電気の専門でもあり、現代の多くの技術課題について、示唆に富むご意見や、新たな気づき・視点を得ることができました。
6. 終わりに
今回の研修会は、講師による講演とグループワークにより、事例をもとに技術者倫理について検討して、深く学習する内容となりました。
与えられた時間内にて、効率的にグループワークを行い、7つのグループともにしっかりと検討し、質疑応答によって、アドバイスや違った視点を知ることの出来る機会となりました。研修内容を今後の参考として、活用していただければ幸いです。
今回の研修会も会場参加とWeb参加のハイブリッドで運営しました。WEBにおいては、スムーズに議論や検討が行われ滞りなく研修会が進行できました。毎回Web機器操作を担当していただく、島田委員をはじめ、多くの協力頂いた修習委員に感謝いたします。
  修習スタッフの皆様(会場での対応の様子)
【参考情報】
・ウェルビーイングレポート 日本版2024
  主観的ウェルビーイングの測定法:国際標準の現状と今後の展望
  (ウェルビーイング学会)
https://society-of-wellbeing.jp/wp/wp-content/uploads/2024/07/wellbeing_report2024_1.pdf
・第4期教育振興基本計画(リーフレット)
  (文部科学省総合教育政策局政策課)
https://www.mext.go.jp/content/20230928-mxt_soseisk02-100000597_07.pdf
・チャレンジャー号事故
(科学技術振興機構(JST)の技術者Web学習システム)
https://jrecin.jst.go.jp/html/compass/e-learning/42-592/592-lesson01/index.html
(修習技術者支援委員会委員 鬼鹿毛雅之)