2025年6月度修習技術者研修会 開催報告

2025年6月度修習技術者研修会 開催報告

2025/6/7 研修会

こんにちは、委員長の片岡です。

今回は技術士会「準会員限定」の研修会です。「他人に理解される文章の基本を知ろう!!」とテーマを設定し、福田遵先生(福田遵技術士事務所代表技術士)をお迎えして、機械振興会館の会場とオンラインのハイブリッドで行いました。会場参加者は20名、Web参加者は40名で、会場/Webとも満席です。

司会進行は、佐々木さん(電気電子部門)です。研修会での司会は初めてですが、聞き取りやすい良く通る声で、落ち着いた進行でした。

司会進行:佐々木 嶺 (技術士 電気電子部門)

1 開会挨拶

始めに修習技術者支援委員会の片岡より挨拶いたしました。「他人に理解される文書作成の基本を実践して下さい。技術士試験にも活用できますが、それ以上に日頃の業務に大いに役立つと思います。昨年受講された方より「文書うまくなったねと、会社で褒められた」とのうれしいお話もいただいています。

2 講演「他人に理解される文章の基本を知ろう!!」

2-1 講師のご紹介

執筆された書籍はなんと105冊! 先生は、お知り合いの方より「本当に仕事しているのか?」とよく問われるそうです。もちろんちゃんと仕事をなされています。さらにこれほどの本を書くだけではなく、ご本人によると、中学生の頃から年間200冊は読んでいる、との読書ぶりです。

先生からは「年間50冊は読んでいないと、まともな文書は書けない。技術士論文にもならない。」と叱咤されました。(私も勉強不足を感じております。)

福田先生 (技術士 電気電子部門・総合技術監理部門)

(福田遵技術士事務所代表技術士、作家)

さて、ご経歴です。福田先生は、千代田化工建設株式会社に入社され、電気設備だけではなく発電から送電まで幅広くご経験されました。その後、明豊ファシリティワーク株式会社に転職し、会社上場を任され、これを達成! 続いてアマノ株式会社に転職され、パーキング事業本部副本部長として業務改革にご尽力されました。そしてアマノメンテナンスエンジニアリング株式会社で副社長としてご活躍され、現在は福田遵技術士事務所の所長としてご活躍されています。

技術士会での活動では、技術士資格を1991年取得され、青年技術士懇談会(現、青年技術士支援委員会)、企業内技術士委員会委員、技術士試験制度検討委員会委員さらに座長を務められています。また、東京弁護士会PL弁護団の技術顧問、さらに神奈川県支部修習技術者支援委員会委員として幅広く活躍されております。技術士試験制度では、「解答文字数の削減、概念の明文化、出題内容の明文化、全技術部門・選択科目での出題形式の統一化を実現」を提言し、実現され、今日に至るまでの技術士試験制度にとても深くかかわられています。

2-2 論文が評価されない根本的な理由

「自分の書いた企画書・提案書・プレゼン資料が評価されない!」と不満を持つ人は多いと思います。私も以前はそうでした。しかし評価されない理由は、ちゃ~んとあります。整理すると、根本的な理由は次の4点です。

①何が求められているのか理解していない

②勝手な判断で話を進めてしまう

③自分の記述能力の把握ができていない

④何が重要かを途中で忘れてしまう

なるほど、指摘されれば、私の場合も確かにその通りでした。例えば社内で業務改善の“提案を受ける”立場でみてみましょう。今気になっている問題以外の問題を持ち込まれても、“こいつは優先課題が分かっていない”と期待していない評価になるだけかもしれません。

そのほか、②③④ともその通りです。④については技術士試験問題の答案作成でも陥りやすいと思います。例えば重要な解答以外の文を書いてしまうと、肝心な解答を記述するスペースも時間も無くなります。つまり書き始める前には項目立てを行い、書き始めたら“問題文は捨てる”と先生は強調されていましたが、まったく同感です。

2-3 論文を作成するための基本姿勢(彼を知り、己を知れ)

孫子の兵書より、「彼(てき)を知り、己を知れば百戦あやうからず」という言葉が論文作成・コミュニケーションにとって、とても大切になります。この言葉の中で、彼(てき)とは、対象の目的であり、相手が求めている課題と解決策を示すこと、己とは、論文力・経験の深さであり、自身の能力を示します。

2-4 論文を作成するための基本姿勢(木を見て森を見ずにならない)

例えば技術士試験問題解答を例に考えれば、「木」つまり、個々の問題の字面にとらわれない姿勢、すなわち、知っている単語にこだわって知識をひけらかすような解答をすると、内容が題意に沿わなくなるかもしれないので、「森」つまり、概念や出題内容を考慮して答案を作成する姿勢が大切です。

2-5 論文を作成するための基本姿勢(多面的な姿勢)

森を見る姿勢とは、多面的な視点をもつ姿勢でもあります。多面的な視点をどのように習得するのか、本委員会でも年間を通して取り上げているテーマです。多面的という以上、少なくとも3つの異なる視点を挙げたいものです。先生からは、「日頃から新聞に目を通す。タイトルやリード文だけでも重要。そして気になった記事はしっかりと読み、切り抜きをする。」を推奨されています。私もハサミでチョキチョキとスクラップブックを作っていました。見返すと全体像と状況の進展がつかめます。本当におすすめです。

2-6 マニュアル技術者か、応用力のある技術者か(業務プロセス個々の理解)

自分の業務プロセスを見つめなおす姿勢は、日頃の業務を使って自分を向上させるポイントでもあります。業務プロセスのそれぞれの意味や意図が分かっていない人は、応用が効かない技術者です。先生は「自分が行っている業務のプロセスを書き出してみる」をお勧めされています。プロセスが10個以上すぐに出てこない人は、自分の仕事への取組みを再考してみてください。私はすぐに10個以上出てきました。ちょっと安心ですが、プロセス一つひとつについてはイマイチかも、と反省しております。

2-7 読みやすく書く(論文は「一方通行」のコミュニケーション)

読み手に“感情的な拒否感”を持たれない工夫をお話しくださいました。感情的な拒否感を持つ要因としては、「趣旨を理解していない」、「指示している課題項目に対する解答が抜けている」があります。これらが見られると「この人、全くわかっていないのでは?」との思いにつながります。

さらに、「主語が明確になっているか」、「論理的・合理的(原因と結果の対応付け)に示されているか」、「専門用語は適切か」などがポイントです。

特に専門用語については、全くその通りと反省させられました。私の業界(情報通信)でもかなり専門用語がありますが、会社が違うとその捉える範囲が違う場合が多々あります。同じ会社の組織間でさえも意図する内容が違っています。

ここは、「白書」を参照しましょう。白書に書かれた専門用語は、専門とする省庁の職員が業界各社と接し、一定レベルで共通理解となっています。

3 演習「理解されやすい文書を作成する」

論文を作成するにあたって、以下の4点が重要となります。

①畳みかけるような軽快な文章を作る → 冗長な文章とならないように常に配慮する

②箇条書きを効果的に使う → 箇条書きだけで文章を構成するのはNG

③句読点を効果的に使う → 句読点は音読の息継ぎタイミングと考える

句読点の位置によって、捉え方が異なるので注意が必要

④副詞や接続詞の使い方に慣れる → 副詞や接続詞の使い方で文章が際立つ

3-1 演習(各自で演習し、発表1~2名希望者のみ)

事前に演習課題として例題1~6が配布されています。ご講演を聞いたうえで問題文をみると、確かにと納得できると思います。

例題1、文章の要約(1文13行の文章をわかりやすく要約する)

これは福田先生が解答案を提示されました。元の文には読点(、)はありましたが、句点(。)が最後に1つだけで、長くて理解しにくい文章でしたが、箇条書きと句点(。)を組み合わせると、とてもわかりやすい文章になりました。

例題2、文章の主語は何か(主語を読み手に考えさせない)

会場参加者に文中の主語を発表頂き、福田先生からアドバイスを頂きました。主語については絶対に書かなければならないわけではありませんが、読み手に主語を考えさせない文書構成が大切です。もし、読み手が主語を考えながら読んだとすると、どうなるでしょうか。おそらく、後の文意が変わってしまい、読み手は期待した文脈と違う流れになるので混乱します。例えば例題での主語を「人類は」とする場合と、「技術者は」、あるいは「企業の経営者は」、さらには「政治家は」とする場合では、以後の文脈が全く異なります。

例題3、Yes、But法、No、But法を使った文章の要約(特徴を表現)

Web参加者の発表を聞き、福田先生よりアドバイスを頂きました。このYES、But法、No、But法は文章を目立たせたいときに有効な表現方法となります。基本的に技術文書は肯定文で書きますが、「原理と特徴を述べよ」、と求められた場合などに使うと、「文書がうまいよね」、と思ってもらえる場合があります。例えば、「石炭は安価で各国で入手しやすいが、CO2の排出量が多い」など特徴(=長所と短所)を端的に記述できます。

例題4、5、接続詞の有効活用(技術文書は接続詞が勝負!)

会場参加者とWeb参加者の発表を聞き、福田先生よりアドバイスを頂きました。接続詞を使う場面には、「重ねて示す」「逆説的に示す」など6つの場面があり、それぞれ場面にあった接続詞があります。接続詞が入ると読みやすく、論旨の展開が掴みやすくなります。

「たかが接続詞、されど接続詞」です。作成した文書を読み直す際に、推敲の対象に接続詞を考えましょう。例えば、事実・現状を説明した文のあと、「なぜなら」と続けると、読み手は理由が述べられる文を期待し、そこに理由が書かれていると、ストレスなく文書を理解できます。

例題6、文章の「こと」を書き換え(6種類の「こと」について)

「こと」が多用されている例題です。「こと」には次の6つの種類があります。

・前述した文章を指す「こと」

・何かの事実を示す「こと」

・場合(ケース)を示す「こと」

・結果を示す「こと」

・事実や内容を示す「こと」

・無意味(不要)な「こと」

「こと」でごまかしてはいけません。

しかしながら「こと」はつい、使ってしまいます。(ちなみに、技術士PEにも・・・)。推敲時に「こと」に気づいたら読み手が混乱しないように置き換えられないか、考えましょう。

さて、6番目の『無意味な「こと」』の発見は、すごい! まるで数学での「零(ゼロ)の発見」の様です。確かにわたしも使っていました。

加えて、提示されたこの例文もすごい!6種類の「こと」を見事に織り込んでいます。

ちなみに、「こと」にアンテナが立ちました。翌日のNHKラジオニュースでしたが、どれほど「こと」が使われているか。いままで意識なく聞き流していました。(ちなみに、このブログの文書でも「こと」を推敲しています。)

4 閉会挨拶

修習技術者支援委員の石川副委員長より挨拶を頂きました。

(修習技術者支援委員会 石川副委員長 技術士 化学部門、総合技術監理部門)

本日の研修を通して、日頃の業務での文章作成時に意識してもらいたいポイントが示されています。接続詞の大切さなど、日頃の業務で活用し、文書力の鍛錬をしてください。

5 研修会終了後

研修会終了後の集合写真です。

このあと、Web参加者はオンライン交流会、会場参加者は近隣の居酒屋に移動し、先生を囲み懇親会を行いました。

6 ブログ後期

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ちなみに、居酒屋では、歓談のあとパフェを食べています。

アイスクリームにホイップとチョコがかけられていて、なかなかおいしい!

最後は先生の“指締め”です。チャチャチャン・チャチャチャンと一本締めをする際に、うるさくしないように周囲に配慮し、“指”を合わせて締めます。これが結構オツで、私は好きです。先生に手本を実演してもらい、皆で締めています。

ところで、先生の著作は技術士本だけではありません。中高生向けの「実用技術を支える法則の本」、ゼロカーボン実現のために向かう電化時代に備えての著作などがあります。

先生の著作(技術士本以外も素晴らしい)

仕事も十二分以上で、会社上場も果たし、現場での問題やトラブル対応など、実に精力的!さらに出版数には全く驚き!です。

貴重なご講演と懇親会へのご参加も、ありがとうございました。

(修習技術者支援委員会 委員長 片岡陽一)