2021年12月度修習技術者研修会 開催報告

みなさん、こんにちは!

修習技術者支援委員会 委員の阿部(真)です。

12/11(土)に、12月度の修習技術者研修会を開催しました。今回は機械振興会館での会場参加とオンライン参加によるハイブリッド方式で試験的に開催しました。

今回のテーマは「エンジニアリングデザイン~技術士に求められるもの~」です。エンジニアリングデザインは過去に日本が遅れていると国際的にも指摘された教育分野でもあります。研修会では、エンジニアリングデザインの歴史的な背景や国際動向、その必要性を学んだ上で、エンジニアリングデザインのプロセスを2回のグループワークを通じて体験しました。

1.開催挨拶

最初に阿部委員長から、開会挨拶がありました。

今回のエンジニアリングデザインは、おそらく我々のほとんどは教育を受けていない。人間は学んでないものは知らないので、学ばなくてはならない。しかもエンジニアリングデザインについては、何を学ぶか自体もわからないと思うが、そうであれば、それを先取りして学ばなくてはならない。今日はエンジニアリングデザインとは何かというだけでなく、学ぶ意識をもって、そのきっかけを掴んでほしい。」とお話がありました。

本委員会 阿部委員長

2.講演(前半)

最初に、講師の高橋委員から、研修会の目標として、’’アウトカム’’の重要性について話がありました。インプットとアウトプットは良くご存じだと思いますが、今日の研修を受けてアウトカム(成果)は何か、皆さん自身で考えることが重要であると宣言があり、講義は始まりました。

まず、エンジニアリングデザインとは何?という前に、なぜ必要なのか?なぜ大事なのか?この背景について詳細な説明がありました。詳細は1991年の日本学術会議報告書や1989年ワシントン協定(WA)*1)まで遡りますが、なんと日本は1999年のJABEE発足時に、ワシントン協定に参加するために審査を受けた結果、エンジニアリングデザイン教育が弱いという指摘を受け、2004年にも同じ指摘を受けています。その対応が始まって、2005年、ようやくJABEEのワシントン協定への正式加盟が認められました。2010年には日本経団連も、問題設定能力、目的意識の不足、狭い専門領域など問題点を指摘しており、複合的な問題に対応できる教育の必要性が益々高まりました。日本の教育は自由記述式の回答が非常に弱くなっているという指摘もあります。

「世の中は益々多様化し、複雑化している。それに対して問題解決できる技術者人材が求められており、そのためにエンジニアリングデザインが必要である。エンジニアリングデザインとは、必ずしも解決策が1つではない問題に対して、様々な能力を駆使して、解決策を見つけ出していくこと。」と説明がありました。

確かに、日常の業務でも解決策が明快な問題というものはなく、最初は何が問題か、それ自体もわからないという事がほとんどだと思います。

*1) 技術者教育の実質的同等性を相互承認するための国際協定で、エンジニアの進路に対して認定されたプログラムの相互承認を提供している。

講師:高橋委員(技術士、機械部門)の講演

3.グループ討議と発表(1回目)

前半の講演を終えて、いきなりという感じではありましたが、AからF(会場)の6グループに分かれて、グループ討議に入りました。今回の課題は、「都市開発コンサルタント社員として、子供が自由に遊べる環境が少なくなっている中で、子供が健康に育ち、豊かな発想力を身につけることができるように、エンジニアリングデザインの視点から解決策を提示する」というものでした。制限時間15分、ストーリー自由というグループワークに戸惑った方も多かったと思いますが、まさに、この課題設定やストーリーから作り上げることこそ、エンジニアリングデザイン!と思います。

高橋講師から、発表を遮らない、相手の意見を否定しない、という基本的なルール説明があった後、早速、各グループに分かれました。グループ討議では、自己紹介からはじまり、リーダー・発表者・書記・タイムキーパを決めて、いよいよ討議です。今回、私もエンジニアリングデザイン教育を受けていない年代で、専門外の課題でしたが、ファシリテータとしてグループ討議に参加しました。

自由闊達で和やかなCグループ討議の様子

1回目のグループワークは15分と短時間でしたが、私が参加したCグループでは、何が問題か?問題点を把握してグループ内で共有するだけでも大変な作業でした。短時間の中、各自が思いつく解決策を列挙し、あっという間に1回目のグループワークは終了してしまいました。

その後、各グループからの発表では、議論の過程と、いくつか解決策の具体的な提示の説明がありました。まずは現状認識として、環境、社会構造が昔と比べて子供が育つ環境が益々複雑化している、遊具の安全性を再認識する事が重要(Aグループ)、前提条件として都市部を想定し、近隣住民への配慮も必要になっている、コミュニケーションも必要(Bグループ)、場、材料、コミュニティ、既存資源利用といったカテゴリに分けて、どうしたら良いか公園以外での解決策も検討した(Cグループ)、何か一つのテーマやイメージに限定せず全国的な課題として各自自由な意見を出し合った(Dグループ)、公園を子供に取り戻すという観点からセキュリティ対策、引率者同伴のポイント制度利用とその評価なども提案した(Eグループ)、公園の使用方法や代替案として室内グランド、マンション一室利用なども考えられる(F会場グループ)など、実に多面的な解決策へのアプローチがありました。これが、まさにエンジニアリングデザインなのだと、各グループで視点や進め方が異なることを実感しました。 

4.講演(後半)

1回目のグループ発表を踏まえ、高橋講師から、都市開発コンサルは専門外だし、こんな無茶な事言われてもと思っていませんでしたか?近隣住民からクレームがあると悪いイメージを決めつけて課題設定してませんでしたか?と図星の指摘がありました。また、①具体的な解決策のみ提示、②条件付きで解決策を提示(~の場合は~する)、③解決へ導く手順を提示/手順と解決策を提示のうち、発表は①と②が多数ではないか?これが従来型教育の影響であるという指摘がありました。では実際に問題解決するには、どうしたら良いか?実は今回のワークでは詳細な検討条件がわからない中でしたが、実際はもっと現状や標準的な仕様を調べたりして、自分で条件を把握し、課題を抽出しなければならない。ヒアリングや現地調査も自分で行ったり、ステークホルダまで思慮を広げたり、こうした中で仮説と検証を繰り返し、課題を多面的に解決しなければならない。問題解決は複合的なものなので、今まで通りや担当外(言い訳)では問題解決になりません。世の中で取りざたされている、最悪の場合の重大事故や倫理問題は、このような原因に帰結しているものが多くあるように思います。

そこで、後半の講演では、高橋講師が経験した具体的な業務経験を事例として、一見シンプルな機械設計でも上流側の電気設計から、下流側の製造・組立、現場の作業性や安全性、顧客仕様まで実に多岐にわたる検討項目があり、それらの仮説と検証を繰り返さなかった結果、社内でちょっとした問題が発生した事を紹介されました。これが客先まで行ってしまったら大変でした。各担当で仕様を把握して、なぜ必要なのか深く掘り下げれば良かったのですが、だからこそエンジニアリングデザインが必要であることを強調されていました。IEAでもエンジニアの定義は「複合的な問題を解決する技術者」として、テクニシャンの定義「明確に定義された問題を解決する技術者」とは区別されています。広い視野をもって複雑な問題を解決できる技術士になりたいものです。

また、講演に対する質疑では、技術士倫理綱領3つ目に掲げられている業務範囲の考え方について、エンジニアリングデザインではどの場面から専門外とすればよいのか?という質問もありましたが、問題発見や課題設定は専門分野を超えて多面的に検討し、解決策を実行する段階で必要ならその専門の技術士と協力する、というお話がありました。因みに、技術士倫理綱領の3つ目は現在、「専門分野を超えて相互協力すること」と改正される動きになっていて、海外でも例えば、プロフェッショナル・エンジニア(PE)に詳細な科目分けはなく、やはり相互協力するというエンジニアリングデザインの考え方が潮流になっています。

5.グループ討議と発表(2回目)

さて、後半の講演でエンジニアとエンジニアリングデザインの重要性をより深く学んだ上で、改めてグループワーク1の課題を掘り下げたり、修正したりして、さらに議論を深めました。私が参加したCグループでも、もう一度問題文を読み直した上で、問題の本質を考え、環境、コミュニティ、安全などのキーワードから解決策の共通性、経済性、優先度を和やかな雰囲気で議論しました。2回目のグループワークは、80分と時間をとって議論しましたが、やはりあっという間でした。

続いて、2回目のグループ発表です。各グループとも、さすが1回目の発表内容の議論が深まり、説得力が増して、具体的な解決策も多く提案されました。

与えられた状況を、あえて都市、地方に分類せず、日本を支える子供の教育、成長をいかに安全に確保するか、時代変化に応じて提供できるかというテーマの本質を議論したり、そのために環境を調査しながら、子供を取り巻くコミュニティ強化、交流の場の提供必要であること、また、解決策を導くのに点数付けや根拠を明確にしたり、健康な育成について再度議論し、3つの視点(コミュニケーション、体感、リピート向上)を整理したりと、問題文を読み直して課題の定義、価値を考え直したりした結果、実に多面的かつ具体的な解決策が提案されました。

グループ発表が終わり、高橋講師から講評をいただきました。今回のグループ課題は、実際には何週間、何か月もかかるもので、とても時間内に終わるような課題ではありませんが、今日は解決策の提示よりも、その問題に気付いて解決しようとした事が大事です、とお話がありました。また、「課題を設定して解決策を考えて、再度、更なる課題が出てきて、また解決策を出る。この仮説-検証を常に繰り返して業務に取り組む、日常でも意識して取り組むことが重要である、技術士試験の問題はまさにエンジニアリングデザインそのものです。そして、技術士取得後のCPDなど、技術士制度自体がエンジニアリングデザイン能力を獲得・向上させるものになっています。」と総括されました。

6.講評とまとめ

最後に、片岡副委員長から講評をいただきました。

「自分自身でアウトカムを設定し、エンジニアリングデザインのプロセスを経験してみて、どうでしたか?同じ問題文を読んでみても、意識合わせが結構大変だったと思います。公園と言っても一人一人イメージが違い、課題に対しても思い違いは沢山あります。それも大きな気づきです。この研修会では、仕事と違って評価されることはなく、自分のスキル試し、学びの場として活用する場なので、ぜひ皆さん今後も積極的に参加して活用してください。」とお話がありました。

本委員会 片岡副委員長

半日ではとても議論が尽きず、私自身、頭もフル回転で疲れましたが、エンジニアリングデザインのプロセスを振り返り、本日の‘’私のアウトカム‘’をもう一度考えてみたいと思います。

― 以上 ―

修習技術者支援委員会 委員 阿部 真丈